『ダンケルク』以来、3年ぶりとなるクリストファー・ノーラン監督最新作にして、COVID-19で困窮する映画館を救う起爆剤としても注目の本作は、各所でその難解さが話題になっておりますが、私は「情報量の多さに混乱するだけ」でそこまでハードルを上げる必要は無いように感じます。
事実、物語の基本構造はスパイ映画のそれで至ってシンプルだし、主要キャラも「正義感溢れる名無しの主人公」と「なんでも用意する有能過ぎる相棒」と「力を持った破滅思想のDV夫」と「その束縛から逃れたい幸薄美人妻」の4人だけで、その目的や行動原理も単純明快で分かり易い。
肝心の「時間逆行のカラクリ」にしてもある種の開き直りをしており、細部まで辻褄を合わせようとしていないので難しく考えず「ドラえもんの秘密道具」くらいの感覚で臨めば、そこまで惑わされる事もないと思う。
ぶっちゃけ、この辺りの纏め方や種明かしのカタルシスなんかは『プリデスティネーション』の方が上手で、「謎の襲撃者」や「黒幕の正体」もこの手の話が好きなら早い段階で察しがついてしまうので過度な期待は禁物。
全体の印象としては予期した通り『メメント』の発想を膨らませSF化した大型アップデート版といった感じで、個人的に『インセプション』越えとはならなかったけど、退屈だとか、つまらないという事はなく、知的好奇心を擽る題材とCGに頼らずローテクで撮影された逆行アクションなど目を見張るシーンの連続で、あっという間の2時間半でした。
本作は理詰めで考えず、大まかなルールだけ頭に留め力を抜いて挑むのが正解なんだけど、こういう情報量の多い作品こそ日本語吹き替え版の真価が発揮されるのに上映版には用意されていないのが重ね重ね残念です。