第95回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演女優賞など7部門を受賞した話題作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を観る。
ここ数年ハリウッドは非白人を起用した作品を不自然に持ち上げ意識高い系にアピールする「ごますり」が大ブームなので、本作もそういう類なのだろうと見くびっていたら、なるほどこれはそういうバイアスを差し引いてもぶっ飛んだ怪作である。
最初に概要を聞いた時はジェット・リーが並行世界の自分と戦う『ザ・ワン』(2001年)の女性版かと思ったのだが、蓋を開けてみれば主人公の造形やアクションを含めむしろジャッキー映画のそれで、調べたら初稿は彼を主演に迎える想定で書かれたとのことで妙に納得。
コミカルなキャラクターにバカバカしい描写、お下劣な要素を交えつつ、最後は純然たる家族愛でもって涙を誘う辺り『クレヨンしんちゃん』味が凄くて、バカな事をすればするほど強くなるというルールもそうだが、とあるシーンで靴の臭いを嗅がせて正気を取り戻すのなんて完全にオトナ帝国リスペクト。
更に目まぐるしく入れ替わる場面や混沌とした精神描写などは『千年女優』『パプリカ』のそれで、やはり監督は湯浅政明さんや今敏さんからの影響を公言しているもよう。
スーパーヒーロー映画で擦られまくって食傷気味な「マルチバース」ネタでもって、並行世界を飛び回った主人公が最終的に空虚で凡庸に思えた自分の人生を見つめ直し、暴力ではなく「ラブ&ピース」で事態を収拾するラストは象徴的で興味深い。
総尺140分は流石に長すぎて中弛みしてるし、取って付けた様な同性愛描写も点数稼ぎ臭が強く必然性を感じなかったが、「最先端のカオス」とはよく言ったもので文字通りユニークで面白い作品だった。