いまここにあるもの

カメラとか自転車とかアニメとか映画なんかが好きなオタクが管理する闇鍋ブログです。調子が悪いと文章が破綻します。旧ブログはこちらに移管しました→https://otaku4160.hatenablog.com

『ジョーカー』(2019年) -★★★★☆-

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アメコミ映画史上初ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を獲得してしまった超話題作にして珍しく日米同時公開となった『ジョーカー』をせっかくなので初日に鑑賞。
お馬鹿映画『ハングオーバー』のトッド・フィリップスがメガホンを取ると聞いた時は正直不安しかなかったが、蓋を開けて見ればおふざけ要素など一切ない強烈なヴィランムービーが完成した!。

その容赦のなさ、人によっては嫌悪感を抱くほどの徹底っぷりは、悪を謳いながら生温かった『スーサイド・スクワッド』や『ヴェノム』がしっぽを巻いて逃げ出すレベル。

全編通して観客を魅了するのは言わずもがなタイトルロールであるジョーカーを演じたホアキン・フェニックス、その人。
徹底した役作りで挑んだ圧巻の演技は半ば伝説と化したヒース・レジャーに勝るとも劣らない。

世間はどちらが上か早くもランク付けしたがっているが、そもそもバットマンとの対決作品と単独主演作を比較すること自体がナンセンス。
ヒース・レジャーのジョーカーが自身の美学を貫く完成形のヴィランだったのに対し、ホアキン・フェニックスのジョーカーはそこに到る前段階なのだから比べようがない。

ダークナイト』がマイケル・マンの『ヒート』を参考にしたように、本作はマーティン・スコセッシの『タクシードライバー』や『キング・オブ・コメディ』を手本にしており、善良であろうとした心優しき男が捻れ歪み壊れ悪に堕ちて行く過程で、社会的弱者に対する不寛容、他者への思いやりの欠如、保身の為に詭弁を並べ立てる権力者たちを痛烈に批判し断罪する。

陶酔するような純然「悪」ではなく、我々が生み出してしまった誰もが心の奥底に秘めている「悪」。
そういう意味で本作のジョーカーは見ていて、とても居たたまれない気持ちにさせられる。
どこか悲しげな彼の笑い声、泣きながら笑うその姿に胸が締め付けられた。

基本的に『バットマン』の知識は不要だが、持ち合わせていればブルース・ウェインやその両親の存在に「ニヤリ」とさせられること請け合い。
問題は決して万人受けする気持ちの良い物語ではないという点で、倫理的に受け入れ難い部分や、ある境遇の人たちを犯罪予備軍のように描いてることに少なからず批判の声があがるに違いない。

しかし、そうした好き嫌いにかかわらず、ホアキン・フェニックスのジョーカーは一見の価値があり、彼のタバコを吸う素振りやダンス、その高笑いが脳裏に深く刻まれることを断言する。
善悪の判断基準を問うメッセージ性を含め、真の意味でのアンチヒーロー映画の誕生だ。


P.S.
ひとつだけ腑に落ちなかったのは『デッドプール2』の「とってもラッキー(ウー)マン」ことザジー・ビーツの扱いで、彼女は最終的にどうなったと解釈するべきなのだろうか?。
例のシーンの直後に救急車?のサイレンが聞こえるのは「そういうこと」の暗喩とも取れるが、自分を嘲笑ったり馬鹿にしなかった人物を果たして手に掛けるだろうか?。