いまここにあるもの

カメラとか自転車とかアニメとか映画なんかが好きなオタクが管理する闇鍋ブログです。調子が悪いと文章が破綻します。旧ブログはこちらに移管しました→https://otaku4160.hatenablog.com

『ルックバック』(2024年) -★★★★★-

ルックバック フライヤー1

チェンソーマン』で知られる藤本タツキさんの同名短編マンガを『電脳コイル』『スペース☆ダンディ』『ヱヴァ新劇場版:破』『風立ちぬ』など数々の話題先に参加した新鋭・押山清高さんが監督・脚本・キャラクターデザインを担当し映像化した『ルックバック』を観る。

原作同様映画も1時間未満の短編であり、手描きのラフな線を残した独特の質感や4コマが動き出す演出など『アニマトリックス』「アニメミライ」など一時期盛んに作られたオムニバス作品のような実験的なスタイルが興味深い。

絵を描くことが得意な学年の人気者「藤野」が、不登校で同じく絵を描くことが好きな「京本」と出会い、本格的にマンガ家を目指していく青春物語。

周囲のヨイショで天狗になり、ライバルの登場に奮起し、埋まらぬ実力差に挫折し、初めて出来たファンに励まされ、創作する喜びに目覚め、友と夢を追いかけ、やがてそれぞれの道を歩み出し、理不尽な現実に打ちのめされ、それでも黙々と描き(生き)続ける姿で締め括る。

原作は未読だが京都アニメーションの事件を受けて単行本が修正されたという話を覚えており、そういう事なのだと覚悟していたが当該シーンは本当にキツイ。
(聞いた話だとアニメはオリジナル通りの表現になっているそうな)
作品が発表されたのは、あの事件の前であるが、昔から創作の現場ではこういう事が起こっていたのだと思うと、ただただやるせない気持ちにさせられる…。

藤野の部屋に貼ってあった『バタフライ・エフェクト』らしき映画ポスターが伏線なのかもしれないが「もしもあの時あの選択をしなければ…」という後悔と「ありえたかもしれない可能性の世界」の描写は本当に苦しくて、だけどフィクションだからと起きたことを無かった事にしない「選択」…というより「覚悟」に私は唸らされた。

創作者が直面する喜怒哀楽を疑似体験させる物語を、手描きアニメーションという表現手法を駆使して比類なき映像体験へと昇華した評判通りの力作。
四季の美しさや間の使い方など含め実に日本的で深い余韻を残す作品でした。