ジャンプ作品の台頭で感覚が麻痺しているが当時ジブリアニメ以外で興行収入100億円の大台を超えるのは大事件だった『君の名は。』の新海誠監督が『天気の子』以来、3年ぶりに手掛けた最新作『すずめの戸締まり』がいよいよ公開。
端的に言えば「災いを封じた"扉"を締める青年と、彼と偶然出会った少女が織り成す一風変わったロードムービー」。
「新海誠監督集大成にして最高傑作」という触れ込みは大袈裟すぎて懐疑的だったが、なるほど確かに『君の名は。』の「娯楽性」と『天気の子』の「伝承」や「災害」といった要素を咀嚼し『言の葉の庭』で極まった「映像文学」表現でもって『星を追う子ども』のリベンジを果たした傑作である。
生き生きとした登場人物、テンポ良く進む物語、瑞々しい映像美、そして『インターステラー』な驚きの伏線回収、etc.
悪い人間が1人も出て来ないなど、ご都合主義と言われればそれまでだが、SNSを絡めた話の進め方などがとにかく巧くて、この辺り某監督作とは雲泥の差。
メインキャストは全員ノンプロだが新海作品はきちんとオーディションをして選んでいるから違和感がなく、鈴芽や草太を演じた若手2人はもとより、アニメ初参加とは思えない深津絵里さんの安定感や、大人シンジを経て神木隆之介くんが魅せるチャラ男っぷりが花を添える。
『君の名は。』公開後一部から「災害を軽く扱っている」と批判され、『天気の子』では意図的に賛否を呼ぶ幕引きにし、遂に今回3.11と直接向き合う物語を作った新海監督。
それを娯楽映画の題材とする事に反感を抱く人が確実にいる中で、「今がどんなに辛くても明るい未来はきっとくる!」と明確なメッセージを打ち出すその覚悟に私はいたく感動した。
重いテーマを扱いつつエンターテインメントとして成立させるバランス感覚。
蜜月なあまり近くなり過ぎたRADWIMPSとの距離感の見直しなどを含め、監督としてさらなる高みへ到達したように感じられる。
本作は『シン・ゴジラ』以上にあの震災を経験した日本人に向けて作られた映画であり、懐メロの選曲意図など海外のお客さんにはハードルが高いことは容易に想像できるが、別れの先にある明日を見据え、混迷の時代を生きる人々に寄り添い勇気付ける優しくも力強い作品でした。